●映画評:『X-メン:ファースト・ジェネレーション』
文字数:1873字
超人気アメコミシリーズ、「X-メン」。おそらくほとんどの人が名前ぐらいなら知っている漫画だろう。筆者もそれに毛が生えた程度の知識で、前作などの映画版を観ていない状態で本作を観た。
「X-メン」といえば、劇画調で、爪を出す虎柄の男や、目からビームを出す男や、肌が青い女などの超能力者が、敵味方に分かれて戦っている、簡単に言うとそんなコミックである。
本作はそのシリーズの前日譚であるが、大体そのぐらいだけわかっていれば問題なく楽しめる作品だ。さらに、主人公側のボスがプロフェッサーX、敵側のボスがマグニートーとわかっていれば言うことない。
若き日には共に手をとり戦ったプロフェッサーXことチャールズと、そのライバルのマグニートーことエリック。『ファースト・ジェネレーション』とは、この二人がなぜ決別し、いかにして敵対するようになったかを描く、スターウォーズで言うとエピソード1~3にあたる作品である。
映画としては、チャールズとエリックの対照的な少年時代から始まる。第二次世界大戦末期、平和で裕福な家庭に生まれ育ち、能力を隠して大きくなったチャールズと、ナチスによりユダヤ人として収容所に入れられ、母親の死によって能力を開花させられたエリック。
そして時は流れては1960年代。エリックの能力を目覚めさせた元ナチスの科学者であり本人もミュータントであったショウが暗躍し、米ソの対立を煽っていく。それに対抗するために、反発しつつも理解を深め、他の仲間を集めて共に戦っていくチャールズとエリック。この二人の微笑ましく・羨ましく・大変萌える「バディ(相棒)もの」としてストーリーは進行し、キューバ危機の瞬間を舞台に、物語はクライマックスの決断の時を迎える。
『X-メン』の特徴として挙げられるのは、そのテーマ性だろう。本作だけを見ても、シリーズが人種差別問題をテーマにした、社会的な視点を持つ作品であることは容易に見て取れる。つまりミュータントとはかつてのユダヤ人であり、黒人であり、9.11以降のイスラム教徒であり、その他様々な被差別の者達のメタファーなのである。そのことは、ホロコーストがその後の人格に大きく影を落とすエリックだけでなく、チャールズの妹分で青い体のミュータント・ミスティークが肌の色で悩む、といったところでも明らかだ。
そう考えると、人間との共生を目指すチャールズはキング牧師、人間と闘争してミュータントの世界を目指すエリックはマルコムXに重ね合わせられる。
であるからこそ、本作の見所は、テーマ的にも、「X-メン」シリーズの謎として見ても、その二人の決別する瞬間にある。
母親の仇であり最大の標的だったショウと対峙し、復讐の感情に流されるエリック。そして戦っているミュータント全員に向けられた人間達の敵意をスイッチに、エリックとチャールズの信念の違いが決定的になってしまう。その瞬間におこった事故と、それによる二人の決別が、キツすぎるくらいに苦しい。正直、最近見たどんな恋愛映画の別れのシーンより胸に迫る。例えるなら、どちらも自分と親しい友人カップルがどうにもならない喧嘩別れをする様を見るようなキツさだ。
「決別して、悪に堕ちる」ものの代表例としては、『スターウォーズ』シリーズのダースベイダーことアナキンが挙げられる。しかし、アナキンとオビ=ワンの決別よりも両者の距離が近いのに、より深い断絶が感じられたのは、前述の冒頭のシーンで描かれた二人のミュータントとしての目覚めた方、刷り込まれてしまった原風景の違い故だろう。そしてここから物語をはじめた本作の構成の賜物だろう。
もはや差別する側・される側の間だけでなく、志を共にした被差別者の間でも起こりうる断絶。それはともすると人類皆の間に横たわっているとすら感じられ、この悲劇をより普遍的で切実なものにしていた。違う経験をしている以上、人と人は最終的には分かり合えないのだろうか。出会いや友情は、出自を乗り越えられないのだろうか。待ってくれ、違うって言ってくれ。別れ際のチャールズとエリックの表情を見て、そんな叫びが喉元まで出かかった。
ただ一点補足するが、本作は重苦しく陰鬱に終わる映画ではない。そんな決別の直後、エリックが有名な赤い兜を被り身も心もマグニートーになった瞬間こそ最高に盛り上がるポイントであり、筆者も心が痛いのと同時に、最高にアガってしまっていた。そんなバランス感覚の、「痛み」すらあくまで「娯楽」として描いた、優れたエンターテイメント作品であった。
■あとがき■
直した上で今思うのは、「絶賛しすぎ」感。あくまでそのWSでは「誰かに紹介する」という目的でのライティングなので、そんなにこき下ろす感じでもないんですが、にしてもホメすぎかなぁ…。あと、デカイこと言いすぎ感。もっと簡潔に、平易に、粋に、本質を捉えねば。あと長すぎな。
でもホントにラストシーンがキツくて且つアガって良い映画でした。